「白銀の死神Part1〜回想〜」 気に入らないと思った。 エグゼムスが国王の孫娘ラティスと初めて顔をあわせた時の感想である。 特別機の操者として選ばれたエグゼムスら3人の初任務はこの少女に特別機・キングシルバリオンを操縦させるように訓練することだった。 子供が嫌いなわけではない。むしろ好きな方である。ただ。 子供は子供らしくあるべきだとエグゼムスは思っている。こんな子供にまで戦わせなければならない現状が腹立たしかった。 あまり真面目な軍人ではないエグゼムスではあるが、女子供は守るべき者という考えは持ち合わせている。 この場合は、よりによって2つとも当てはまる。全くもって気が乗らない。 そういった感情のためエグゼムスの人相は凶悪になり、ラティスに怖い人と思われることとなった。 エグゼムスは賭け事は好きだがポーカーフェイスは出来ないタイプである。 そんな出会いを思い出していた。 ここは高度700mの大空。 眼前に広がるは百数匹の飛行タイプ・ネスト。その前にただ一機、突如姿を現したマサクゥルが立ちふさがる。 「ここは華麗に名乗り向上でもしたいところだが・・・」「言っても分からんだろうしな」と呟く。 「行くぞ、マサクゥル」 『Yes、Master!』 マサクゥルのOS音声がそれに応えた。 コマンダーである爆殲竜に敵として認識されたマサクゥルへ多数の飛竜が一斉に躍り掛かる。 「どうせ言っても分からんが言っておく。マサクゥルってのは皆殺しって意味だ。そして、お前ら皆殺しにする死神が俺達だ。」  その言葉とともに、マサクゥルは双剣ギノスを構える。そして、飛んだ。 一閃。近づいた飛竜を次々と切り刻む。飛んでくるビームを驚異的な運動性で全弾かわし、群れの中枢・爆殲竜へと突っ込んだ。 ギノスを大鎌形態に合体させ、その首を狙う。爆殲竜からの大量の火線。その隙間を一瞬で見極め、トップスピードですり抜ける! 「!!」 跳ねられた爆殲竜の頭部が弧を描き、地上へと落ちていった。制御を失い落下していく胴体を追いかけ、真っ二つにして完全にトドメを刺す。 大量に噴出した爆殲竜の体液を浴びるマサクゥル。その姿は竜すら恐れる死神そのものである。 統率者を失い混乱する飛竜の群れ。その真上まで急上昇するマサクゥル。 『Madnessbleeze Ready!』「ファイア!!」 マサクゥルの翼が一度のみ羽ばたかれた。ただしその速度は目視不能な速さであったが。 そのあまり大きくは無い翼から信じられないほどの突風を生み出し、乱気流を生んだ。 まるで洗濯機に放り込まれたかのように飛竜は揺れた。次々と同胞にぶつかり数を減らしていく。 飛竜の群れは、更に大気に弄ばれる。風は速度を増し、竜巻と化す。 仲間の破片が猛スピードで襲い掛かる。飛竜の体に突き刺さり、凄まじい遠心力でその体はバラバラに引き千切られた。 そして飛竜・・・いや その残骸がことごとく地上へ猛スピードで叩きつけられる。 最早原型を留めている部品は皆無。百数匹のネストはマサクゥルにより僅か3分弱で全滅した。 マサクゥルのコクピット内でエグゼムスは首を鳴らした。 「お仕事終了、と。」 『マスター、何故もっと早くマッドネスブリーズを使用なされなかったのですか?あの程度のネストなら一発で全滅出来ましたが。』 「コマンダーに統率されたネストは頭を潰すと決定的な隙が出来る。それに、たまにはこういうことしないと腕が鈍るからな。」 『激しく非効率的です。私の性能を信頼していないのですか?』 「勿論信頼はしてるさ。まあ・・・姫様は怒るな。絶対。」 エグゼムスはラティスにHmBloxの操縦法の指南を行っていたのだが、周りの連中に度々「これは危険すぎる」と注意された。 彼の指導のモットーは「とにかく速く」である。安全とかそういった物は最初っから存在しないらしい。 教える生徒に注意されるほど無茶な操縦。もっともラティスには反面教師になったらしいが。 「そういえば元気かな姫様は・・・」  白銀騎士団結成から数週間。 エグゼムスはSDAGの任に付き、各地を飛び回り僻地の竜を退治していた。 白銀騎士団は竜の出現頻度が高い所を優先的に回るために、回りきれない地域をカバーする任務も必要になるのである。 今のところは特に大した事件も無く、活動は順調であると聞く。 『マスター、通信です』 「繋いでくれ」 「ようエグゼムス。仕事は順調かい?」 モニターに出てきたのは王国軍人事室・室長のエドソンであった。白銀騎士団の団員の選出を指揮した人物である。 「ああ。全く休む暇も無い。」 「お疲れさん。朗報があるんだ。SDAGを増員する案が通ったぞ。」 「ほほう。」 「そしてその人物なんだが・・・」 「誰だ?」 「あのガヴァメントだ」 「処刑人か。あの男、今までは軍への編入は拒んでいたはずだがどうしたんだ?」 「SDAGだと好き放題出来るってのとその他の様々なメリットを伝えたんだ。報酬もたっぷりとな。向こうの言い値だぜ。あ、聞くなよ?言いたくない。」 「役に立つか?あの男は信用できない」 「まあ強さだけは保障されてる。高い買い物じゃないさ。それにお前、あいつに勝てる奴を思いつくか?」 「俺。」    それは―――――見事なまでの即答であった。 ・・・・・・・・・・・ 「す、少しは謙虚になれよ。同じ条件なら分からないぜ?」   「俺はこれでも王国一謙虚な男だぞ。」 「相変わらずの自信だな。」 「自分の力を信じないで何を信じる?仲間を信じるのもいいが、まずは自分を信じてからだ。」 これはラティスにも口癖のように教え込んだことである。自惚れることではない。自らの実力を完璧に把握することが重要であると。 そして、それを信じることで最善の戦いが出来るのだと。 エドソンとの通信を終え、近くの軍事基地へとマサクゥルは飛んだ。 空はどこまでも青い。この空がエグゼムスは好きである。 太陽はまだ高く、地上を照らしていた。 ある時の話である。エグゼムスはマサクゥルでラティスを連れての空中散歩と洒落込んだ。 連日の訓練で疲労しているラティスの気分転換になれば、と思っての行動であったが。目に映る地上の光景は竜に荒らされた村や街の廃墟。 ただひとつ、どこまでも広がる空の青さだけはラティスも美しいと思った。 帰った後でうっかり書置きを忘れたエグゼムスは散々な大目玉を食らうことになった。ラティスが居なくなった城ではそれはもう、大騒ぎになったらしい。 もっとも、ラティスはエグゼムスに感謝していた。 自分が何のために戦うのかをその目で理解することが出来たのだから。 ラティスにとっては一生忘れ得ない体験となったのは確かである。 ふと不意に雲が厚くなる。さっきまで眩しかった空は雲に覆われていた。雷鳴とともに雨が降り出す。 激しく叩きつける雨が先ほど付着した体液を洗い流す。まるで慟哭のように。後の惨劇を予感させる不吉な空。 この日こそ、ForthOfJackとTypeウラネスが激突した忌まわしき日。 (次回Part2へ続きます)